池上彰が開拓した鉱脈

  

 

中学時代の後輩に最近なに読んでるですか?と聞かれたので池上彰の学べるニュースと答えるとハッピーセットのCM並みに驚いていた。

(ハッピーセット/アイムラビニッ)http://www.youtube.com/watch?v=ytHUb9U6i7I

彼は私が剣道部の部室で『フリードマン』『ハイエク』『アーレント』を読み、それを引用して日教組系社会科教師と遣り合っていたのを見ていたので今さら『池上彰』に手を出しているとは想像していなかったのだろう。それ以外の本は?と恐る恐る聞いてきた彼に池上彰『政治のことがわからないまま社会人になった人へ』『経済のことがわからないまま社会人になった方へ』と答えた。そして追加でガッツ石松でもわかる500円から学べるエクセル入門』と言ってやった。

池上彰という人物をどう評価していいの分からない人は多いと思う。地上波では引っ張りだこで、その為彼の書籍も売れている。番組は政治経済に疎い素人にも分かりやすい解説だがWikipedeiaレベルのコピー解説だという批判も多い、一見すると森永卓郎のような既存メディアに寄生する恥も捨てた拝金主義者に見えるかもしれない。

私自身、彼の本を読むまでどう評価すべき人物なのか迷走していた。少なくとも顔つきや話し方は横暴ではなく、子供や一般人の的外れな質問にも丁寧に答える姿から多少の好感は持っていた。森永卓郎のようにいい加減な予測めいた結論を言わずに『これからの展開が注目です』『みなさんも考えるテーマかもしれません』などとサラリと問題提起に留まっていることには政治/経済解説者としての誠実な印象はあった。彼も最近、電源カフェ下京区でオープンしたみたいだが。

私は池上氏の本を読んで、この人に対する確信を得た。それは池上氏が持ち続けている圧倒的な危機感と信念と言えばいいのかもしれない。


高度にインフラ化された現代社会の複雑さを反映してか、この国の多くの人が『政治経済は難しいからね』と拒否反応を示しバラエティーなどに関心を傾倒させていく中で、逆に問題山積した政治経済の衰退は歯止めがかからない状態だろう。いくら政治経済の良書が出版されたとしても一部の層が買うだけで多くの『大衆』には伝わらない、そして無数の重要な問題が理解されず無関心に忘れ去られていく、まるで爽やかな絶望の風が吹くような現実が日々流れていることに私を含めて唖然としていた人は多いのではないだろうか。ある程度の予備知識が必要なため多数の『もっとも伝えるべき層』に社会の重要な問題がほとんど正確に伝わっていないのである。これでは改革どころか正しい問題意識を持つことさえかなわない。

この『もっとも伝えるべき層』に伝える言葉、方法がない、というジレンマは最大の難題だった。池上氏は『どのようにすれば彼らに伝わるのか』ということを圧倒的な危機感の中で考え抜いてき、そして彼はあえて『子供番組』と『バライティー番組』に出演することでそのジレンマを壊す方法を確立する。いや開拓したとも言える。

池上氏のやったことはまさに『ゲリラ戦』に近い方法だと思う。現状の歪なアナウンスメントの責任は既存メディアにあり、池上氏もそのことはよく知っている。ただ正攻法で既存メディア批判をして既存メディアからスポイルされるとの作戦は終わりなのだ。この『もっとも伝えるべき層』はゴールデンでひな壇芸人を見て笑っている層だのだから、彼はテレビに出ないことには伝えられないのである。そして彼は彼自身がひな壇芸人の番組へ出演するという究極のストラテジーで関心を引き入れることに成功した。多くの専門家から白い目で見られるということは想定済みだったと思う。政治経済に関心がなかった層にとって池上氏の分かりやすい初歩的な解説は『新鮮な関心』だったのではないだろうか、多くの人が『少しは政治も知らなきゃ』『経済とかおもしろいなぁ』と書店で彼の『学べるニュース』を買ったはずである。その関心や知識は現状/これからの問題を理解する足がかりとなるはずだ。


『経済のことがわからないまま社会人になった人へ』という彼の本の中で『年金』について書かれた項目がある。私が社会保障財源に危機感を持っているのは希望/絶望ブログ愛読者の皆さんはご存知だと思うが、私はこの項目を呼んで感動してハッピーセット状態に陥った。以下に概要をまとめる。

彼は年金制度のシステムを分かりやすく解説したあとで『少子高齢化』『資金運用の失敗』という現状の問題点を指摘している。そしてこの賦課方式システムでは破錠してしまう可能性と、たとえ破錠しなくても現高齢者のような高倍率リターンではなく掛け金以下の支払いとなる可能性が高いことについて正直に書いている。(社会保障財源個枯渇については前エントリー 前々エントリーに記載)

この現状を分かりやすく解説するだけでも至難の技なのだが、私が驚いたのはこの項目の最後、彼の締め方である。(以下抜粋)

『しかし、年金の将来が大変不安であることは事実です。特に今の若い人たちにとって払い込んだ金額分の年金が受け取れないという深刻な事態があります。今のお年寄りは平均寿命だけ生きると自分の払った分の何倍もの年金を受け取れる計算です。あなたのおじいさん、おばあさんくらいの世代です。その次の世代、すなわち現在40歳くらいの人たちは払い込んだ額と支給される額が同じくらいになる計算です。そしてそれより下の世代になると払い込んだ額より支給される額が少ないという事態が予想されています。このような見通しがあるため、若い人の間に年金に対する不信感が募り、未加入の人が年々増えています。ましてや資産運用の失敗やリゾート施設乱立の現状を見ると払いたくもなくなります。このままいくと年金制度は本当に破錠してしまうかもしれません、自分の将来のためにある年金なのですから、もらえないかもしれないのなら払いたくない、と思ってしまうのは当然かもしれません。しかし破錠しそうだからといって払わないと、本当に破錠してしまうのです。本当は政治が解決する問題ではありますが、払わないと本当に破錠する、という問題を抱えているのです』

この問題に対するすべての重要な点が、この分かりやすい文章には詰まっている。決して『破錠』に対してヒステリックにならずに冷静に問題提起をしている池上氏の『静かな危機感』を感じることができる。その危機感が『どのようにしたら伝わるか』という考え抜かれた狂気のような思いへ注ぎ込まれ、このすばらしい文章へ昇華したのだと思う。(池上彰を馬鹿にする人は彼の基礎的な解説書の問題をすべて説明できるかテストすればいい、私は資金管理団体(陸山会)の定義を間違えていた)(あと池上氏の経済認識を疑問視する人は多いが、氏は9割を用語や関係の基礎的交通整理に時間を割いており、マクロ経済政策にまで言及し、さらに結論づけることは滅多にない。森永卓郎と有害率を比較してもケタはずれにエコだし、教育効果を差し引きすれば十分なお釣りがくる、この国は重箱をつつくようなあらゆることに対する批判/批評で溢れて萎縮/閉塞しているが、具体的な行動やプランを示せる人は天然記念物より少ない、この事実を再考すべきである。ついでにもうひとつ言うと中央銀行が貨幣量を増やせば物価上昇でデフレ脱却という一見当然のように聞こえる森永氏が唱える大デマに池上氏が否定的な態度なのは賛成である)
 

経済のことよくわからないまま社会人になってしまった人へ

経済のことよくわからないまま社会人になってしまった人へ

上記の本は生きていくなかで『お金』とどう付き合っていくかということにテーマを置いて、経済、社会問題へ拡大していく進行で解説されている。私は現代のような複雑化した市場経済社会へ出る子供達には『お金』とどう付き合うかという教育は最重要テーマだと思う。多くの日本人が『お金』に潜在的な嫌悪感を示す一方、グローバル経済はお金という『差別』『偏見』のしがらみのないフェアな価値基準を通しての広大な貨幣空間でダイナミックに繋がっている。貧困による格差や差別はあっても貨幣自体が意思/悪意を持ってそれを促している訳ではない。貨幣自体は信用を担保にした幻想(紙クズ)である。そして現代のさまざまな価値を定義するモノサシであり、無機無情にこの世界を繋げる循環体系といえるだろう。このデリケートな認識を伝えるのは難しい、貨幣自体に嫌悪しても仕方がないのである。その身もふたもない事実を認識してお金と上手に付き合うことを伝えることができる人がどれだけいるのだろうか。

個人として大切な『お金』をどう使うかという関心や知識は、さまざまな社会経済問題やビジネスへの理解へと拡大するだろう。民主主義の根本が国民主権である以上、政府の行いを正しく監視するにも『経済』の知識は不可欠である。そして複雑な営利関係のジャングルで生きていかざる得ない現代人にとってサバイバルする道具、身を守る盾、羅針盤としてもお金にたいする理解は不可欠といえる。
  
 

社会主義者が『啓蒙』という形で情報格差を利用して理想論をトップダウンで『大衆』にアナウンスメントするのに対して、池上氏の『問題認識、関心』を持ってもらい、1人1人の国民が自分で判断、理解できる基盤を作りたいという謙虚な姿勢はなんと健全なことか。ほとんどの人が忘れ去った民主主義教育の王道を進んでいると言っても過言ではない。『子供ニュース』を数年続けたのは未来の大人達である彼らにこそ関心を持って欲しいという信念からだろう。そして大晦日に批判覚悟で一見馬鹿に見える解説バライティーで額に汗を流していたのは、今一番多くの人に伝わるチャンスを逃すべき理由はないという鉄の意志だ。

すこし話は変わるが、日本にいてすばらしい科学啓蒙書に出会うことは滅多にない。大先生と呼ばれる権威が書き手でも駄目な場合が多い。多くの啓蒙書が『初めての』といいながら途中から化学反応式オンパレードの専門書となっていたり、逆に陳腐にエンターテイメント化していたりと、一般人でも知的な興味を持続でき、かつ内容を下げずに分かりやすく解説している本は珍しい。

海外の良啓蒙書がかける大先生は、神経系ならルリア、ダマシオ、ラマチャンドラン、化学系ならレーニンジャー、心理系ならピアジェ、ピンカー、物理系ならホーキング、ファインマンなど次々と名前が挙がるのだが、不思議なことに日本では皆無に等しいのである(福岡伸一は多少マシな人)、(広告)ネオンサイン通販・格安のお店

専門家ではない自分とは違う子供や一般人といった『他者』にどうすれば伝わるのか、どうやったら関心をもってもらえるのか、という重要な点がこの国の偉い先生方には抜け落ちているのかもしれない。そんなこと考える必要すらなかったのかもしれない。本当は考え抜かなくてはならない最重要課題なのに。

中高大学問わずサンデルの授業を見て少しあこがれた教員は多いのではないだろうか、この国のほとんどの人が見たことがなかった本場のディベート形授業というものを初めてみたといっても過言ではないだろう。

サンデルのマネをする必要はないが、ただ重要な点は文科省推進の相互理解の『新しい教育』といわれてもこの国の教育者、学生のほとんどが、その伝え方の『文脈』を知らないのである。そして当然のことながら従来の文脈では『お金』とどう付き合うかといったようなデリケートではあるが必然といえる新規のテーマを扱えない。だから現場教員は迷走するしかないと思う。格差やリスクを伴う『お金』、しかし無視できないこのテーマをどのように意見交換して理解を深め、関心を持って考えることができるか。ほとんどの人が答えることは出来ないのである。(池上氏はかつて『右翼』『左翼』というデリケートな問題まで子供ニュースで扱ったようである)

私は池上彰という人が『子供ニュース』を通して、この重要な『文脈』を開拓しようとしていると思えてならない。




追記、このような分野・問題に関して、ゴムホース大學大学院ベーコン研究所では、日々メンバーと研究活動や情報共有しています。
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